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「科学」が届かないところ

2012.03.03.22:04

ここ3日間ほど、病院に泊まり込みです。

今担当している、がんの患者さんが、末期の状態になって、
いつお亡くなりになるか分からない、そんな状況だからです。

別に病院に泊る必要もないのですが、
いよいよ最期が来た時に、
寒い夜中に病院まで来るのが大変なのと、
そもそも起きれないかもしれない、という不安があって、
時々家に帰ってご飯をつくって食べたりお風呂に入ったりしながら、
病院で夜を過ごしています。

この患者さんに対して、
僕が何かできるわけではありません。
ずっと家で過ごされて、往診してもらいながら様子を診てもらってたけど、
なかなか具合が良くならなくて、
うちの病院に紹介されて来た時には、がんが見つかって、
体のあちこちに転移している状態でした。

手術による治療にせよ抗がん剤による治療にせよ、
本人も家族も希望しない、というより、
とても治療ができない状態だったので、
ひたすら「苦痛をとる」ことだけをやってきました。

自宅とは勝手が違う病院の一室に、
ご家族がずっと付き添われて、
お花を愛でるのが好きだったこの方のために、
お花を持ってきてもらったり、写真を飾ったり、
もちろん、息が苦しくならないように酸素を使ったり、
痛みを取るための痛み止めを使ったり、
そういうことはやりましたが、
お部屋に入ると、ものすごいニコニコの笑顔でいつも迎えてくれた
この方と、
手をつないで、お話をして、
落ち着いたのかほっとしたのか、
すやすやと眠りに入ったら、部屋を後にする、
毎日これの繰り返しでした。
ちょうど、小児科で働いていた時代に、
寝付けない子どもを寝かすような、そんな感じです。

ご家族の目には、どう映ってたかわかりませんけど。

時々、「医者として、こういう時に何をすべきか」って思いますが、
この時、「医者」という言葉をどのような意味で使うかによって、
何をすべきかが変わってくる、
そう思うようになりました。

すなわち、
「科学者としての医者」と「人間としての医者」
です。

西洋医学は、その基本は科学、scienceです。
サイエンスというのは、
計測が可能で、それによって比較が可能で、
再現性があって、
条件をそろえれば、いつどこで、誰がやっても同じ結果がでる、
というのが基本です。
そして、その対象は、ただの物体であって、
対象自らが自分の意思で行動しては困ります。
だから、どんな分野の医学であっても、
それが臨床心理だとか精神科だとかであっても、
基本的に、医者と患者の間には、
完全に壁で遮断されて、大きな溝があります。
だから、患者本人の意思と、医者の側の考えが違う方向を向くことは、
至極当然の成り行きです。

今の病院で、成人を診療するようになることが決まって、
仕事が始まる前に買った本があります。
大井玄先生の「人間の往生」という本です。
仕事を始める前に読んでも、なかなか実感が湧かなかったのですが、
何人か看取って、いろんな患者さんやご家族とお付き合いをさせてもらって、
ようやく書いてあることの意味が少しずつ分かるようになりました。

まだまだ、「人間の往生」を語れるほど、経験も知識もありません。
そもそも緩和医療に知識が必要なのかも分かりません。
医者だから、何かを分かってるかのように語らなければならない、
そのように期待されているに違いない、
そういうプレッシャーの中で、
結局、できることは、
手を握ったり、お話を聞いたり、
なるべく患者さんやご家族が僕に話ができるように、質問をふってみたり、
そして、知ったかぶりなことは話さないようにして、
でも、正直、思ったことは話してみて、
そういうことの繰り返しです。

なくなってしまうと、
もう患者さん本人とも、ご家族とも、
会うことも、話をすることもできなくなるので、結構寂しいものです。
それでも、患者さんも、ご家族も、みんなが納得して、往生できたなら、
それはよかったというべきなのか、やりがいがあったと言っていいのか、
不謹慎かもしれないし、なんと表現したらいいのか分かりませんが、
とにかく、僕自身が少し救われます。
一人では受け止められない、魂の重みを、
ご家族みんなと一緒に受け止められることができれば、それが願いです。
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2012.03.04.10:17

ご無沙汰しています!看取るのに慣れてしまったナースやドクターにみてほしいブログだと思いました。一度先生と成人病棟の臨床で働きたかったです。めちゃくちゃ寒いと思いますが、身体に気をつけてくださいね。@ニューオーリンズ(外気温摂氏25度!)
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プロフィール

ハマダラカ

Author:ハマダラカ
職業:元小児科医、現在なんでも屋的医師を目指して修行中
日本を、そして海外を、自由に移動しては、
働いたり遊んだりの、
自称フリーター医師。
しばらくタイにあるビルマ難民向け病院でボランティアしてましたが
現在岩手県の被災地にある病院に来ました
関西人のつもりですが、心のふるさとは北九州市
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