一縷の望み
2010.11.15.19:39

彼は13歳、左手の爪が紫だったり、指輪をしていたり、
オシャレに気を使う男の子ですが、
3ヶ月前から、うまくしゃべれなくなり、歩けなくなり、
文字も書けなくなってきました。
全く手足が動かないわけではなく、
すごくぎこちない動き、
・・・特に動き始めが大変です。
大人だと、パーキンソン病のような、そんな動きです。
家が裕福だったようで、日本円で数万円、
我々の実際の感覚で10数万円も出して、
両親が頭のCTを撮りに連れて行ってくれました。
CTだけでは、残念ながらはっきりした診断はつかなかったけど、
その後も血液や尿の検査を受けることができて、
Wilson病(ウイルソン病)という診断がようやくつきました。
この地域の医療で日本と違う点として、
CTを撮った病院では、診断もつけずに撮りっぱなし。
患者さんにCTの生写真を渡しておしまい。
別の病院で診断をつけたら、今度は診断をつけっぱなし。
そこから治療にすすむとは限らない。
つまり、今に至るまで、
多くの医療スタッフがかかわってきましたが、
誰一人「主治医」として今後の検査方針や治療方針を説明もせず、
家族と相談もしていないんです。
患者さんは、ただ、「Wilson病」と書かれた診断結果と
その根拠となった検査結果を持って、
右往左往することになります。
おいおい・・・
Wilson病というのは、
肝臓と脳に金属の銅がたまってしまって、
だんだんとダメージを受けてしまう病気です。
多くの食物に銅はほんの少しだけ入っていて、
普通なら、それを体が上手に利用して、
いらない分は体の外に排泄するんですが、
その流れがうまくいかないと、
脳や肝臓にたまってしまうんです。
治療しなければ、数年で亡くなってしまう可能性が大です。
名前だけは医者の間では有名ですが、
非常にまれな病気で、そうそう見ることはありません。
突然の患者さんの登場に、
どうしたものか、どうしたらいいのか、
スタッフはいろいろ聞いてきます。
僕も日本で主治医として治療したことがないので、
だいたいのことは分かるけど、
細かな薬の量などは、慌てて本で確認!
そして、この病気は、非常に難しい側面が2つあります。
一つは、遺伝病であること。
そして、もう一つは、一生薬を飲み続けなければならないこと。
しかも、必ず空腹時に飲まないといけません。
薬を飲むと、ある程度は良くなりますが、
100%症状がなくなる保証はなく、
ある程度症状が良くなった後は、
病気を良くするためではなく、
悪化を防ぐために飲み続けなければなりません。
症状をとるために薬を飲むことは簡単ですが、
症状がない時に、予防的に薬を飲む、
しかも毎日食事の合間に飲むことは、とっても難しい。
そして、薬をしばらく飲み忘れて病気が進んでしまうと、
あとは助かる手段が非常に限られてしまいます。
一見平坦だけど、実は薄い氷の上を毎日歩いて行くような、
神経の磨り減る日々が一生続くことになります。
でも、初めて彼のCTを見た時は、
このクリニックでは助けることができない病気だと思いました。
実際、この病気の薬はうちのクリニックにはありません。
それが、両親の努力によって、
なんとか治療を受けられそうなところまでこぎつけました。
現在、Wilson病の治療は少しずつ新しくなってきています。
将来的には、革新的な治療ができて、
一生薬を飲まなくても良くなるかもしれません。
その日まで元気でいるためにも、
今の一日一日、治療を受けて生きていけることを
患者さんと一緒に喜びたいなあ、とそう思います。
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